プレプリントとは何か?

研究成果を公表する有効な手段として、 ますます多くの研究者が利用するようになっているプレプリント。 一方、 出版業界でもプレプリントを学術誌に掲載する論文として正式に認める方針が主流になりつつあります。ここでプレプリントの歴史を振り返り、出版業界をどう変えたのか ―どのように改善したのか― 見て行くことにしましょう。

最終更新日:2022年5月4日

プレプリントとは何か?

プレプリントとは?

研究者の多くはジャーナル掲載まで研究成果を発表することができません。 しかし、 これには数ヶ月、 場合によっては数年かかることもあります。 そこで、 研究発展に貢献するスピーディーな打開策として、 プレプリントの出番となります。 プレプリントとは、 プレプリントサーバーと呼ばれる公開リポジトリにアップロードされる正式な査読前の論文原稿のことです。

多くの場合、 プレプリントにはデジタルオブジェクト識別子(DOI:digital object identifier)が付与されるため、 他の研究者による引用が可能になります。 しかも、 DOIには「公開のタイムスタンプ」が含まれているので、 その研究成果を誰が最初に発表したのか周知することができます。 つまり、 プレプリントの投稿者は自分が第一発見者・提唱者であることを示す確たる証拠をすぐさま手にすることができるのです。

また、 このような形で原稿をオンライン投稿すると批評やフィードバックをもらうことができるため、 課題の検証や解決のほか最終的には研究の質を高めることにつながります。

研究成果を公表する有効な手段として、 ますます多くの研究者が利用するようになっているプレプリント。 一方、 出版業界でもプレプリントを学術誌に掲載する論文として正式に認める方針が主流になりつつあります。

さらに、 新型コロナウイルスの出現によって、 学術研究を促進しその成果を社会に還元する必要性が高まりました。 その結果、 プレプリントサーバーには新型コロナウイルス関連の原稿が殺到し、 新たなアイデアが生まれる契機になったのです。 もちろん、 中には行き詰まってしまうアイデアもありましたが、 さらなる発展につながるものもありました。

では、ここでプレプリントの歴史を振り返り、出版業界をどう変えたのか ―どのように改善したのか― 見て行くことにしましょう。

プレプリントのおおまかな歴史

プレプリントは何も新しいものではありません。 実際、物理学の分野では最新の学術的知識を共有するため、主に印刷物の形で1940年代から利用されていました。

プレプリントに関する最初の革命

プレプリント配布に関する最初の革命が起きたのは、スタンフォード大学のSLAC国立加速器研究所がSPIRES-HEPデータベースに登録されている最新のプレプリントを印刷し、配布リストに名を連ねる世界中のメンバーに送付するようになった1960年代です。

プレプリントに関する2度目の革命

続く2度目の革命はLaTeX形式の文書ファイルが登場した1978年。「.tex」形式のファイルのおかげでプレプリントの電子化が可能になり、黎明期のインターネットを通じて配布できるようになったのです。

当時は、文字だけのテキストに記号や数式を組み合わせたLaTeXファイルを電子メールで送付し、受信者がレンダリング・印刷して利用していました。

プレプリントに関する3度目の革命

プレプリントに関する3度目の革命は、1991年のコーネル大学の物理学者ポール・ギンスパーグによる世界初の現代的プレプリントサーバー「arXiv」の開設です。これによってはじめて、研究者たちはプレプリントのアップロード・検索・ダウンロードを同一の集約的オンラインサイト上だけで行うことができるようになったのです。

arXivは先行研究の論文を幅広く検索しやすくすることで、学術研究の世界を一変させました。このプラットフォームの登場によって、研究者たちはプレプリントにレビューやコメントを付けることも可能になったのです。arXivはまた、学術研究や出版におけるオープンアクセスという概念の普及に一役買いました。

このオープンアクセス化の動きは近年ますます加速しています。

代表的なプレプリントサーバー

現在、60を超えるプレプリントサーバーがあり、その数は今も増え続けています。大半のプレプリントサーバーはここ10年以内に設立されたものですが、最も古くからあるarXivは30年以上の歴史を誇ります。

以下に挙げるのは、充実した内容をもつ代表的プレプリントサーバーとその設立年、運営者および目的をまとめたものです

  • AfricArXiv:あらゆる学術分野のアフリカ研究を対象とした完全無料かつオープンリソースのデジタルアーカイブとして、研究コミュニティ主導で設立されたプレプリントサーバー。少数の熱心な研究者グループが2018年に立ち上げました。
  • arXiv:1991年に設立された世界初のプレプリントサーバー。運営者はコーネル大学です。非営利のarXivサーバーには、物理学・数学・コンピュータサイエンス・統計学・量子力学をはじめとする分野のプレプリントが掲載されています。
  • Authorea:ワイリー出版が運営する営利型のプラットフォーム。論文執筆者たちが「最新のオープンな研究成果を探したり公開したり」するのをサポートするために、2017年に設立されました。
  • bioRxiv:生命科学分野の研究を掲載するためのプレプリントサーバー。コールド・スプリング・ハーバー研究所が2013年に設立しました。
  • ChemRxiv:「化学および関連分野の未公表プレプリントを投稿・配布・保存する」非営利のサービスです。化学分野の学術団体のコンソーシアムによって2017年に設立されました。
  • Jxiv:科学技術振興機構によって2022年に設立された、日本発のプレプリントサーバー第1号。その目的は、プレプリントの公開を通して研究成果の迅速な公表をサポートし、オープンサイエンスを促進することです。表示画面は日本語・英語の2つが用意されていますが、研究を世界に広く発信するため、多くの原稿で英文概要も掲載されています。
  • Research Square: リサーチスクエア社が2018年に設立したプレプリントサーバー。営利型ですが論文執筆者による原稿の投稿は無料です。Research Square上に直接投稿できるほか「In Review」という仕組みがあり、530を超える学術誌に論文を投稿すると同時にプレプリントを公開できるようになっています。
  • F1000 Research:F1000 Research社が生命科学分野の研究者向けに設立したオープンリサーチ公開用プラットフォーム。「論文をはじめとする研究成果を出版バイアスなしで迅速に公表する」サービスを提供しています。
  • Preprints.org:MDPI(Multidisciplinary Digital Publishing Institute)が2020年に設立した非営利サーバー。「多分野横断(Multidisciplinary)」という組織名が示す通りあらゆる分野の研究論文を受け付けているほか、投稿後すぐに閲覧可能になるという特徴があります。
  • medRxiv:医学・医療・健康科学研究を掲載するプレプリントサーバー。コールド・スプリング・ハーバー研究所が2019年に設立しました。
  • MetaArXiv:BITSS(Berkeley Initiative for Transparency in the Social Sciences)が運営する多分野横断アーカイブ。MetaArXivは学術研究の透明性と再現性を高める目的で2017年に設立されました。
  • SSRN:エルゼビア出版が運営する営利型のプレプリントサーバー。『ランセット』誌やその姉妹誌と連携しており、査読中の論文原稿をプレプリントとして投稿することができます。

プレプリントサーバーに関する詳細やさらに網羅的なリストに関心がある方はASAPbioのプレプリントサーバー・ディレクトリをチェックしてみましょう。

プレプリントは従来のジャーナルとどう違うのか?

プレプリントと従来のジャーナルの違いは、公開のタイミングや査読方法、アクセスしやすさをはじめとする要素によって決まります。

投稿vs.掲載

プレプリントは通常、査読開始前の「投稿」または「先行公開」です。

一方、従来の学術誌論文は査読を通過し、ジャーナル上で一般読者の目に触れるようになって、初めて公開されたことになるのです。

DOI付与のタイミング:掲載前vs.掲載後

プレプリントサーバーの多くは投稿原稿を通常1週間以内、早い場合は投稿直後に受け付けます。そして、プレプリント原稿には必ず、CrossRefをはじめとするデータベース・ディレクトリが管理するデジタルオブジェクト識別子(DOI)を利用したタイムスタンプが付与されます。

このDOIのおかげでプレプリントは公式の学術出版記録として引用可能になります。つまり、ジャーナルに論文を掲載するのと同じメリットが得られるわけです。

一方、従来のジャーナル論文では査読のプロセスに数ヶ月、遅い場合には数年かかることもあります。そして、論文執筆者は記事がジャーナル上に掲載されるまでDOIによるクレジットを得られないのです。

専門家による査読vs.研究コミュニティによるレビュー

従来の学術誌では査読が必須です。ジャーナル編集部に投稿された原稿は審査をパスすると1人または複数人の査読者のもとに送られ、チェックを受けるわけです。

査読者は通常、当該分野の専門家であり、原稿掲載の可否や修正の必要性などを判断します。

この査読プロセスは3世紀以上にわたって出版物の質を確保する上で不可欠な規範だと考えられてきました。しかし、ジャーナルによる査読や承認があるからといって論文の信頼性が保証されているとは限りません。査読にも弱点はあるからです。

一方、プレプリント投稿の目的は多くの場合、当該分野の研究者たちに幅広くコメントしてもらうことです。コメントはプレプリントサーバー上で行われることもあれば、プレプリントのレビュー用プラットフォームやソーシャルメディアを通して行われることもあります。コミュニティによるレビューは以下に挙げる例を見ればわかるとおり、論文の位置づけを通して強みや弱点を明らかにしてくれます。プレプリントに対する研究コミュニティの取り組みはますます活発化していますが、さらに積極的な参加が求められています。ここでご紹介した研究コミュニティによるレビューに関するプレプリント全文を読むにはこちらをクリック

comments on a preprint

プレプリントのメリット

プレプリントは読者だけでなく論文著者に多くのメリットをもたらしてくれます。例えば:

  • 素早く引用可能に:DOIによって素早くクレジットが確立されるため、査読付きジャーナルへの掲載前であっても他の研究者による引用が可能になります。
  • 投稿前にフィードバックをもらえる:プレプリントサーバーを利用すれば世界中に原稿を公開できるほか、ソーシャルメディアを通して他の研究者たちにレビューを依頼することも可能です。これに対し、同業の研究者たちはサーバー上でレビューやコメントを公開したり、電子メールを通して個人的に連絡したりすることで応えるわけです。
  • 容易なアクセス・透明性:プレプリントは完全なオープンアクセスであり、誰でも読むことができます。そのため、他人の研究を剽窃する研究者やハゲタカ出版を炙り出す上でも役立つのです。
  • 研究成果の迅速な普及:査読論文が掲載までに平均4ヶ月かかるのとは対照的に、プレプリントは数日以内に公開されます。

信頼性・透明性確保のカギ、プレプリントの明白なメリット

研究の信頼性・透明性を確保したり学術交流の迅速化したりする上でプレプリントがカギとなることはResearch Squareの編集長Michele Avissar-Whitingが以下の動画で解説しています。

プレプリントプラットフォームで早期に研究を共有する明確な理由は5つあります。

infographic on preprints

プレプリントの限界

プレプリントには多くのメリットがあるとはいえ、限界もあります:

  • プレプリントには従来の査読のような綿密なチェックがありません。
  • 研究の進展に伴い、同一のプレプリントに複数のバージョンができてしまうことがあります。そのため、読者が最新版と以前のバージョンを取り違えてしまうこともあり得るわけです。
  • 一般メディアなど、学術研究に関する知識を持たない人がプレプリントを査読済み論文と勘違いしてしまう可能性もあります。これは間違った情報の拡散につながるおそれがあります。

プレプリントに関する役立つリンク・情報源

原稿をプレプリントとして世界に発信するなら、投稿前に洗練させたほうが良いのは言うまでもありません。そこで、学術論文の高度な編集を目的として開発されたAIベースのローコスト・デジタル英文校正 (Digital Editing)をお試しになってはいかがでしょうか?またResearch Squareのプレプリント用プラットフォームおよび関連ツール・サービスもご覧ください。

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