プレッシャーとの闘い:研究発表における戦略とモチベーション維持

地道に研究発表する努力を続けなくてはならないのは何故でしょう?また、どのようにすればモチベーションを維持することができるのでしょうか?

最終更新日:2014年11月24日

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実験に失敗して何年間も行き詰まったりカフェイン中毒になったりした末、ようやく革新的な成果を挙げることができるとしたら喜びもひとしおなはず。けれども、その大発見を知っているのがあなたとアドバイザー、限られた同僚たちだけだとしたらどうでしょう?本当に成果を挙げたと言えるのでしょうか?

研究成果を公表する意義

高名な化学者Carl DjerassiとRoald Hoffmannが2001年に発表した戯曲『Oxygen』のテーマとなっているのは、まさにこの哲学的な疑問です。この作品では、ノーベル化学賞を「遡って」授与するとしたら酸素の発見者として受賞者になるのは誰か、という問いかけがなされます。

酸素の存在に初めて気づいた(しかし、そのことを公表しなかった)科学者でしょうか?

その発見を最初に公表した(しかし、発見の意味合いをあまり理解しておらず、確信もしていなかった)科学者でしょうか?

それとも、断片的な知見をつなぎ合わせ、現象に今日的な理解をもたらした科学者でしょうか?

理想的な世界であれば、たった一人の人物がこういった業績をすべて独力で成し遂げてしまうかもしれませんが現実にはそう上手くいかないものです。さて、戯曲の中では誰がノーベル賞にふさわしいのか明言されていません。しかし、現代社会において研究発表の重要性は疑う余地もないほど明らかです。

コミュニケーションへの参加

研究成果を発表し、研究コミュニティの発展と知見の充実に貢献するのは研究そのものと同じくらい大切です。それはなぜでしょうか?そもそも、各人が秘密裏に研究を進めるのでは科学は成り立ちません。変容し続けるこの世界で科学・技術の成長を促進するには、他の研究者たちの成功や失敗から学ぶことが不可欠なのです。

新しい研究成果の発表は、あなたの業績を世界に知らしめるためだけに行うわけではありません。あなた自身には思いもよらなかったような新たなアイデアや応用、視点へと発展するからこそ大切なのです。特に、研究に関する著作は新たなテーマやアイデアの出発点となる豊かな知見を研究者たちにもたらしてくれるものです。

失敗も公表しよう

研究結果が思わしくなかったとしても、思い切って公表しましょう!付箋に用いられているはがせる糊の発明者は、もともと強力ではがれない接着剤を作ろうとしていたのをご存じですか?彼の失敗のおかげで、それまで誰も気づかなかったようなニーズを満たすことができたわけです。

「失敗」に終わったあなたの実験は、全く違う分野や未知の用途で応用されるかもしれません。同時に、他の研究者にためらわず質問して昔からある問題を新たな視点から捉え直すのもよいでしょう。特定の分野の専門家というものは常識にとらわれて小さな盲点を見逃してしまいがちなので、新鮮な視点から素朴な疑問を投げかけることが、往々にして研究に新たな命を吹き込む上で必要となるのです。

経歴の充実を目指し,頻繁かつ早めに

科学の発展に貢献するためアイデアを交換するというと気分が良いものですが、研究成果の公表にはもちろんもっと現実的な理由もあります。とりわけ学問の世界では、履歴や経歴の充実が早めかつ頻繁に研究発表を行う上で大きな動機となっています。キャリアにおける現状ややりたい仕事の種類によっては、経歴の追求が研究発表を行う唯一の理由になってしまうことだってあるでしょう。実際、論文を何本発表したかという経歴は,研究者たちの能力を比較する指標としてよく利用されています。

これによって研究者の真価を測ることができるかどうかは別として、この厳しい現実は今日の研究者たちにとって大きなストレスの源であり、論文の質や創造性の低下につながってしまうことも珍しくありません。とはいえ、下手な鉄砲も数撃ちゃ当たるというわけではありません。数は少なくともレベルの高い論文を有名な査読付きジャーナルに掲載してもらう方が、凡庸で誰も読まないような論文をたくさん発表するより遥かに影響力があることは忘れないでください。

「出し抜かれる」のを防ぐ

早めかつ頻繁に研究発表しなくてはならないもう一つの大きな理由は、成果が「出し抜かれる」のを防ぐためです。成功目前の(あるいは,発表で一日遅れを取っただけの)テーマについて他の研究者が発表した最新論文を読む羽目になるのは研究者にとって最悪の悪夢です。こういった不運は避けられないことも多々ありますが、それでも可能性を下げる方法はいくつもあります。

まず、1本の包括的な論文にまとめようとして断片がすべて揃うのを待つ代わりに、将来的な研究につながる予備的な成果を研究報告として公開することを検討しましょう。このアプローチは学術誌で今話題のテーマについて研究している場合にとりわけ役に立つはずです。また、特許や発明の開示をはじめ知的財産を保護する方法は他にもありますが、こういった方法はプロセスが複雑で時間がかかることが多いため、研究の種類によっては適さない場合もあります。

根気よく取り組もう

とはいえ、インパクトファクターの高いジャーナルに論文を掲載してもらうのは必ずしも容易なことではありません。そこでカギとなるのが根気です。なにも査読者のコメントに気落ちすることはありません。もし、論文がリジェクトされてしまったら査読者のコメントやアドバイスを吟味し、あなたの研究成果を公表する場としてそのジャーナルが本当に適切かどうか判断するようにしましょう。

適切だと思われる場合は、思い切った修正や追加を行うことでジャーナルの基準を満たすことができるはずです。逆に適していないということになれば、焦点や読者層が少し異なるジャーナルを当たり、あなたの専門分野やテーマに合致したものを見つけるのがよいでしょう。

研究者としての矜持

研究成果を発表する動機が何であれ、より大きな展望を失ってはいけません。熱意をもって根気よく取り組み、新たなアイデアや軌道修正にも柔軟に対応しましょう。酸素の発見に貢献した18世紀の化学者たちが活躍したのは史上初のノーベル化学賞(1901年)の遥か以前ですが、彼らの功績は今も活かされているのです。

研究成果を自分のものとして発表し、他人から認められたりキャリアアップを達成したりするのは気分が良いものです。しかし、本当に大切なのは学問の世界に後々まで残る意義深い貢献をすることなのです。

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