オープンアクセスジャーナルには、著者にとっても読者にとっても多くの利点がありますが、どのビジネスにもみられるように、正しい動機に基づくオープンアクセスジャーナルに混じって、学問とは無関係にただ金儲けだけを目的としたものも存在します。
このような「ハゲタカ」ジャーナルは、著者から料金を徴収するだけでなく、著者が自らの学問的成果をコントロールできない事態に陥れることもあります。このようなジャーナルがいったん「出版」した論文は、きちんとした学術誌に投稿できなくなることもあるのです。さらに、厳格な査読の手続きを経ずに全ての記事を受け付ける、いわゆる「バニティプレス(自費出版専門請負業者)」によって、オンラインでリサーチを行う読者が誤った情報を与えられ、査読のシステム自体に対する公衆の信頼が損なわれるというリスクもあります。
したがって、学術ジャーナルのふりをするハゲタカ出版社を回避することが重要ですが、そのようなジャーナルを見分けるにはどうしたらよいのでしょうか。この記事では、警戒すべき兆候のいくつかをご紹介します。もっとも、これらの注意点は、悪徳ジャーナルないし悪徳出版社に該当する可能性を示すものに過ぎないことにご留意ください。
きちんとしたジャーナルでも、特に創刊初期段階のものなどは、以下の注意点のうち2~3点に該当することがあるかもしれません。しかし、リストの基準の多くに引っかかるジャーナルの場合、執筆記事を投稿したり、あるいは、掲載記事を引用したりしようとする際には、まず、そのジャーナルについてもっとよく調べてみることをお勧めします。では、あやしげな出版社の8大兆候は以下のとおりです。
1. 「出版料」ではなく「投稿料」を請求するジャーナルや論文の著作権を保有しようとするジャーナル
オープンアクセスジャーナルの多くは、著者側が費用を負担することで成り立っています。著者が料金を支払うことで、読者は無料で出版物にアクセスできるわけですが、この費用は、出版料、すなわち、投稿された記事の出版が認められた場合にはじめて課される料金という形でまかなわれるべきものです。また、その料金の額も、ウェブサイト上であらかじめ明確にされているべきものです。
悪徳あるいはハゲタカ的なジャーナルの中には、投稿料(あるいは「取扱手数料」)として、原稿の出版が認められるか否かにかかわらず料金を請求するものがあります。場合によっては、料金が700米ドル以上にのぼることもあり、投稿前にはそのことが明らかにされていないということもあります。
また、オープンアクセスジャーナルに掲載された論文については、著者が著作権を維持し、究極的にはクリエイティブ・コモンズ・ライセンスの下で公開されるべきものです。オープンアクセスを標榜しながら著作権の保有を要求するようなジャーナルは、極めて警戒すべきと言えます。
2. 編集委員会が極めて少人数もしくは「近日中に設置」というジャーナル
編集委員会の顔ぶれは、ジャーナルの強みを映し出すものです。すなわち、優れた科学者がジャーナルの運営に携わっていれば、査読のプロセスも徹底した強固なものとなりますし、また、そのジャーナルには優秀な論文が寄せられます。しかし、残念ながら、対象分野において高い評価を受ける科学者を全く編集委員として迎えることなく創設されるいかがわしいジャーナルもあります。
ご自分の研究分野を対象とするジャーナルであれば、その編集委員会には見覚えのある名前が含まれているはずです。いずれの編集委員の名前も知らないという場合には、各編集委員の出版物を検索し、立派なジャーナルに優れた研究を発表しているかどうか調べてみてください。
編集委員会ないし編集長が存在しないジャーナルに論文を投稿したり、そのようなジャーナルに掲載された研究に頼ったりしてはいけません。誰が論文を査読し掲載の可否を判断しているのか知れたものではないのです!編集者の選任は、新しいジャーナルを創刊する上で最初の一歩ともいえるプロセスであり、したがって編集者がいないようなジャーナルは、恐らく、どんな原稿でもオンライン掲載することで金儲けをしようとしているだけだと見るべきでしょう。
3. 一つの出版社が極めて多数の新しいジャーナルを一度に刊行している場合
悪徳出版業者によくある手口として、ありとあらゆる著者をカモにするために、取り扱う「ジャーナル」の対象分野を広げるということがあり、この場合、典型的には、例えば「ザ・ニュー・ジャーナル・オブ・何々(対象分野)」のように、同じような題目のジャーナルを並列して扱っています。もし、出版先として検討中の出版社が、何百種もの新しいジャーナルを提供しているのであれば、それぞれのジャーナルについて適切な編集者を確保している可能性は低いと考えられます。このように多数の新しいジャーナルを創刊する場合、往々にして上記の「編集委員会は近日中に設置」という問題点も惹起します。
4. 一定期日の発刊を予定していたにもかかわらず実際には発刊されていないジャーナル
定評のあるジャーナルには、スケジュールどおりに各号を発刊するに足りる原稿が寄せられるものです。投稿ないし引用を検討中のジャーナルが、本来6か月前に最新号を発刊するはずであったにもかかわらず、実際には何ら発刊されていないというような場合は、要注意です。
5. ウェブサイトが質的にプロフェッショナルと言えない場合
多くのジャーナルは、学術団体、バイオテクノロジー企業、原稿校正サービス企業などからの広告収入を得ているものですが、レンタカー業者や花屋の広告を掲載しているようなジャーナルは、学術界に深く浸透していない可能性があるので要注意です。さらに、ウェブサイト上の記述に、多少の誤字脱字の域を超える多大の不備がみられる場合や、連絡先情報が記載されていない場合などは、さっさと別のサイトに移動するのが賢明かもしれません。
6. ジャーナル名に使用されている国名ないし国際性とジャーナルの編集委員会や所在地などが一致しない場合
ジャーナルが「アメリカン」あるいは「ブリティッシュ」と冠しながら他の国で発行されているのであれば、誤解を招く恐れがあると言えるでしょう。一般的にいって、「アメリカン」あるいは「ブリティッシュ」を誌名に冠するジャーナルは、アメリカやイギリスに拠点を置く一流学術団体と関係するものです。
編集などの面で適切に世界全体をカバーしていないにもかかわらず誌名に「国際」と銘打つのも虚偽表示の一種と言えます。実情よりも定評のあるジャーナルであるかのように見せるために、「アメリカン」、「ブリティッシュ」、「国際」などと冠することもあるのです。この記事で指摘している他の注意点と同様、これらの語を冠していること自体が問題だというわけではありませんが、よく調べてみるに越したことはありません。
7. 掲載論文のタイトルや要旨に根本的な間違いがある場合
ミスは誰にでもあることで、多少の誤字、脱字があっても大問題とは言えませんが、論文のタイトルや内容全体にわたって根本的な間違いがある場合、査読者や編集者がその内容に詳しくないということが考えられます。例えば、「コレラ菌」の表記に正しい名称「Vibrio cholerae」ではなく、「Vibrio cholera」(「cholera」は病名であって、バクテリア名ではありません。)が繰り返し使用されているなどといった事例がこれにあたります。興味を引かれたジャーナルの記事に目を通す際には、基本的な間違いが繰り返されていないか注意してください。
8. ジャーナルの中身がジャーナル名や本来の対象分野から外れている場合
機械工学に関するジャーナルに小児がんの治療についての論文が掲載されているような場合、そのジャーナルは中身をまともに編集していない可能性が高いと言えます。各ジャーナルは、それぞれの対象分野における学術研究について、査読を行うための専門家を備えているはずです。学際的論文についても、そのジャーナルが掲げる本来の中心分野と何らかの関連性を有すべきものです。また、「学際的、総合的」であることを目指すジャーナルであれば、編集委員会のメンバーの専門分野がカバーする範囲もこれを反映したものであるはずです。
以上に指摘した様々な注意点を総合的に考慮すれば、著者、読者双方の立場から、オンライン上で信頼できるオープンアクセスジャーナルを見分けやすくなることと思います。
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この記事の執筆にはベン・マドラック(博士)及びマリー・マクヴェイ氏の助力を得ました。ここに感謝の意を表します。