論文の書き方を身につけるうえで重要なのは、文章表現だけでなく、研究テーマの設定から構成、引用、投稿先の選定までを、順序立てて進めることです。英語ジャーナルへの投稿を目指す初心者の研究者にとって、初めての論文執筆は、これまでの学位論文やレポート、学会発表とは勝手が異なり、大きな負担に感じられることが少なくありません。しかし、必要な手順を一つずつ整理して進めれば、英語論文の書き方は決して難しいものではありません。
この記事では、以下の内容を解説します。
- 執筆を始める前に準備しておくべきこと
- 研究テーマ、読者、投稿先ジャーナルの考え方
- 論文の構成(IMRaD)と、各セクションの書き方
- 信頼できる情報源の選び方と引用の考え方
- 日本語から英語で論文を書くときの注意点
- 論文執筆でよくある失敗
英語論文執筆の流れ
- 研究テーマを決める
- 読者と投稿先ジャーナルを想定する
- IMRaD形式で構成を組み立てる
- 信頼できる文献を引用する
- 投稿先ジャーナルを選び投稿規定に従う
執筆を始める前に:ノートを取る習慣
論文を書き始める前の準備として、まず取り入れたいのがノートを取る習慣です。文献を読みながら気づいたこと、引用したい箇所、自分の研究との関連などを書き留めておくと、執筆の段階で必要な情報をすぐに取り出せるようになります。実験や調査の記録を原稿に仕上げる方法については、実験ノートを学術論文の原稿に仕上げるにはの記事も参考になります。
ノートはテーマごとに見出しを分けて整理すると、後から原稿の骨組みにつなげやすくなります。たとえば、ある社会的要因と健康に関する意識との関連を扱う研究であれば、「低・中所得国における現状」「意識が低い理由」「意識を高める方法」といった小見出しを立て、文献レビューで得た情報をその下にまとめていきます。あわせて、参考文献リストの下書きも並行して作っておくと、引用の漏れを防げます。
ステップ1 研究テーマを決める
研究テーマを決めるとき、興味や情熱は大切ですが、それだけでは十分ではありません。アイデアへの期待が先行すると、そのテーマの新規性、信頼性、与えるインパクトを冷静に検討することを忘れがちです。論文執筆の最初のステップは、研究課題の新規性、信頼性、影響の大きさを問い直すことです。
また、研究テーマを決める際には、最終的にどのような研究課題(Research Question)に答えたいのかを明確にすることも重要です。優れた研究テーマは、単に興味深いだけでなく、具体的で検証可能な研究課題につながります。
そのために有効なのが、自分の研究分野での十分な文献検索です。文献検索には、次のような利点があります。
- そのテーマについて何がすでに分かっていて、どこに知見の空白があるかを把握できる
- 既発表の論文と比較することで、研究課題の新規性や信頼性を判断できる
- すでに同じ課題が検討されている場合は、後の段階でジャーナルから不採択となる手間を避けられ、方法論の変更やより大きな標本数の採用など、先行研究の弱点を補う方向で研究を設計し直せる
研究は必ずしも画期的である必要はありませんが、既存の知見を拡張するか、既存の主張に反証を示すものでなければなりません。
ステップ2 読者とターゲットジャーナルを想定する
研究テーマが決まったら、次に「誰のために書くのか」を考えます。査読付きジャーナルに掲載される論文は、幅広い分野の読者の目に触れる可能性があります。読者がそのテーマについて自分と同じだけの知識を持っていると思い込むのは、よくある誤りです。
読者を具体的に想定するために、投稿先ジャーナルの候補をいくつか絞り込み、そのジャーナルの Aims and Scope(目的と対象範囲)を確認しましょう。ジャーナルの想定読者像が分かれば、背景説明をどの程度盛り込むか、専門用語をどの水準で使うかを判断しやすくなります。読者の視点で原稿を見直し、すでに知っていそうなことと、もう少し詳しい説明を求めそうなことを考えることも重要です。
また、研究の重要概念や用語は、読者が知っているものと決めつけずに、必要に応じて定義して示します。たとえば、ある疾患の啓発に関する研究であれば、疾患そのものの説明は不要でも、啓発によって期待される効果(早期受診による生存率の向上など)は具体的に説明する必要があります。
ステップ3 論文の構成(IMRaD)を組み立てる
テーマと読者が決まったら、研究内容を、ジャーナルが一般に受け入れている形式に沿って組み立てます。多くの学術ジャーナルでは、原著論文は Abstract(要旨)に続けて Introduction(序論)、Methods(方法)、Results(結果)、Discussion(考察)の順に構成する、いわゆる IMRaD 形式が採用されています。論文の構成をこの形に当てはめると、研究内容を整理して読み手に伝えやすくなります。各ジャーナルで構成の指定が異なる場合があるため、最終的には投稿規定で確認してください。
論文全体の構成を簡単にまとめると、次のようになります。

Abstract(要旨)
Abstract は、読者が論文全体を読むかどうかを判断するうえで、最初に目にする重要な部分です。Abstract に書く情報はすべて本文に含まれている必要があり、研究の概要と主な知見を単独で理解できる形で、簡潔にまとめます。略語は Abstract の中で別途定義します。詳しくは、優れたアブストラクトの書き方の記事をご覧ください。
Introduction(序論)と論文の書き出し
論文の書き出しにあたる Introduction では、研究テーマの背景として、すでに分かっていることを述べ、次に、まだ分かっていない知見の空白を示し、最後に、本研究がその空白をどう埋めるのか、あるいはどのような仮説を立てたのかを示します。この「背景、課題、目的」の流れは、次のような英文の型(例文)で表せます。
[Topic] is important because [reason]. However, [knowledge gap]. In this study, we [aim of the study].
上の英文はあくまで型の例です。実際には、研究テーマに合わせて、背景の部分で関連する先行研究を適切に引用します。研究の理論的根拠の書き方については、研究論文における理論的根拠の書き方で詳しく解説しています。
Methods(方法)
Methods では、研究課題に答えるために行った手順を、詳しく説明します。理系の研究論文であれば、実験条件や使用した試料なども含まれます。最も大切なのは再現性で、ほかの研究者が同じ手順を再現し、結果を検証できる程度に詳細に書く必要があります。倫理委員会の承認やインフォームド・コンセントなどの倫理に関する情報も含め、過去形で記述します。
Results(結果)
Results では、得られた結果を、解釈や説明を加えずに示します。結果は、図や表を本文中で順番どおりに参照しながら述べます。すでに行われたことを記述するセクションのため、Results も過去形で書きます。
Discussion(考察)と論文の結論の書き方
Discussion は、研究の主要な知見の要約から始め、その結果を解釈し、既発表の論文と比較して、一致する点や矛盾する点を論じます。研究の強みと限界、今後の研究への示唆もここで述べます。論文の結論の書き方としては、最後に結論の段落を置き、研究の主な知見と新規性を簡潔に要約します。
ステップ4 信頼できる情報源を引用する
Introduction と Discussion は原稿の大きな部分を占め、すでに発表された情報に大きく依拠しています。そのため、主張を裏付ける情報は、信頼でき、最新で、関連性の高い文献から引用することが欠かせません。
- 学術ジャーナル:なかでも査読付き論文は、編集者による審査と修正を経ているため、最も信頼できる情報源です。
- 書籍:学術出版社から刊行され、その分野の専門家が複数の著者として参加し、複数の編集者によって精査されたものが望ましいといえます。著者の経歴や過去の業績を確認することも有益です。
- 公的なオンライン情報源:政府機関(.gov)や教育機関(.edu)のウェブサイトの統計データなどは、比較的信頼できる情報源です。ブログやウィキペディアは情報収集の出発点として有用な場合がありますが、学術論文では原則として一次情報や信頼できる学術情報源を引用することが推奨されます。
一方で、百科事典、原著論文ではなくレビュー論文からの引用、自分が読んでいない文献、特定の国の研究のみに偏った引用、根拠のない主張、文法上の誤りの多い資料などは避けるべきです。引用するすべての情報源は、批判的に読み、慎重に評価したうえで採用しましょう。
ステップ5 投稿先ジャーナルを選び、投稿規定に従う
投稿先ジャーナルの選択は、論文が出版されるうえで最も重要なステップの一つです。どのジャーナルに掲載されるかは、研究の評価だけでなく、研究費の獲得、キャリアの発展、将来の共同研究にも関わってきます。
よくある誤りは、論文を書き終えてから投稿先ジャーナルを選ぶことです。執筆の段階から投稿先を意識しておくと、次のような利点があります。
- 研究がそのジャーナルの Aims and Scope に合致しているかを、早い段階で確認できる
- 本文や Abstract の語数制限、図表の数、参考文献数の上限などの要件を、執筆中から意識できる
- オープンアクセスのジャーナルに投稿する場合、費用の手配に十分な時間を確保できる
- Aims and Scope から想定読者像がつかめ、原稿を適切に書き分けられる
たとえば、投稿先が本文3,500語以内と定めているなら、5,000語程度の原稿を書いてから削る必要はなくなります。具体的な投稿先を一つに決められない場合でも、候補を数誌に絞っておくだけで効率は大きく変わります。投稿先の選び方は、投稿するジャーナルを選ぶコツで詳しく解説しており、専門家のサポートが必要な場合は、AJEのジャーナル推奨サービスもご利用いただけます。
投稿先が決まったら、投稿規定(オーサーガイドライン)に必ず従います。内容に問題のない原稿でも、書式の要件を満たしていなければ、ジャーナルから差し戻される場合があります。語数制限、英国式または米国式の綴り、参考文献の書式、行間、行番号やページ番号の付け方など、ジャーナルごとの規定は、執筆しながら確認しましょう。
日本語から英語で論文を書くときの注意点
日本語を母語とする研究者が英語論文を書く場合、最初に悩むのが、日本語で下書きをして英訳するか、最初から英語で書くかという点です。どちらが適しているかは、研究者の英語の習熟度や分野、論文の分量によって異なります。
日本語で書いた文章を英訳する方法には、日本語の文の組み立てや表現が英文に残りやすいという側面があります。最初から英語で書く方法では、書きにくい箇所の判断に時間がかかることもあります。どちらを選ぶ場合でも、章立てと各セクションの要点を先に箇条書きで整理してから書き始めると、論旨のぶれを防げます。
また、英語論文では一文をできるだけ簡潔にし、主語と動詞の関係を明確に示すことが重要です。日本語では自然な省略表現も、英語では曖昧さにつながる場合があるため注意しましょう。
英語の文章では、段落の冒頭にその段落の要点を置き、あとから補足や説明を加えるのが一般的な書き方です。日本語のように最後まで読んで意味が定まる書き方とは異なるため、アカデミックライティングでは、この違いを意識しておきましょう。まず書き進めてから推敲する進め方については、生産的な論文執筆のための6つの秘訣も参考になります。
論文執筆でよくある失敗
- 論文を書き終えてから投稿先ジャーナルを選び、語数や図表数の制限に合わせて大幅に書き直すことになる
- 研究テーマの新規性を、文献検索で十分に確認しないまま執筆を進める
- 読者が自分と同じ知識を持っていると想定し、重要な用語や背景の説明を省いてしまう
- 信頼性を確認していない情報源や、読んでいない文献を引用してしまう
- 投稿規定の書式や語数制限を確認せず、内容は問題のない原稿が差し戻される
- Results に解釈を混ぜたり、Methods の説明が不十分で再現できない書き方になる
- Abstract を本文の修正後に見直さず、研究内容や結論と一致しない記述が残ってしまう
おわりに
論文の書き方は、一度に身につけるものではなく、テーマの設定、読者の想定、構成、引用、投稿先の選定という一連の手順を、一つずつ丁寧に進めることで確実になります。英語での執筆に慣れていない研究者ほど、投稿先の規定に合わせて構成や表現を整え、わかりやすい論文に仕上げる意識が重要です。英語論文の言語面に不安がある場合は、AJEの英文校正サービスで、分野の専門知識を持つ編集者による確認を受け、投稿前の原稿の質を高めることができます。